東京高等裁判所 昭和59年(ネ)77号 判決 1984年4月23日
控訴人 和田明
被控訴人 園部廸寿
主文
原判決を次のように変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、金二五七万四六三七円及び内別表の金額欄記載の各金員に対する同表の利息金起算日欄記載の日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じて五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
この判決は、金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。
理由
一 当裁判所は、控訴人は原判決添付目録別表の(2)及び(9)を除く本件約束手形について、裏書人として右各手形金及びこれに対する満期の日から各支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払義務があるが、右(2)及び(9)の約束手形については、被控訴人は裏書人である控訴人に対して手形上の権利を行使することができないと判断するものであり、その理由は、次のように加え、改め、削るほかは原判決の理由中その三枚目裏一行目から七枚目表三行目までの説示と同一であるから、これをここに引用する。
1 原判決三枚目中裏一行目の「各一」の次に「及び被控訴人が右甲号各証を証拠として提出した事実」を加え、裏三行目の「各二」の次に「(いずれも被控訴人作成部分については成立に争いがない。その余の部分の成立については、後に説示する。)」を加え、裏六行目の「である。」を「であり、(12)の手形の呈示の日は同年三月三一日である。」に、四枚目中表二行目の「裏書」を「第四裏書」に、表四行目、表六行目、表一二行目、裏二行目及び裏五行目の「証人」を「原審証人」に、表四行目及び表一二行目の「被告本人尋問の結果」を「控訴人本人尋問の結果(原審)」に、裏二行目の「の署名押印」を「作成」に、裏五行目から六行目にかけての「原告本人及び被告本人の各尋問の結果」を「被控訴人及び控訴人各本人尋問の結果(原審)」に、五枚目中表一〇行目の「振り出す」を「振り出し、孝次がこれに手形保証をする」に改め、表一一行目の「、手形」から表一二行目の「こと」までを削り、裏一行目の「行き」の次に「孝次と協議して各手形の額面金額を決めたほか」を加え、裏三行目の「して」の次に「右各手形に手形保証の趣旨で家族の」を加え、六枚目中表一二行目の「いた」を「した」に改め、裏二行目の「反する」の次に「原審」を加え、裏三行目の「被告本人尋問の結果」を「控訴人本人尋問の結果(原審)」に改める。
2 原判決六枚目裏一二行目の「振出人」から同七枚目表一行目から二行目にかけての「いたものであり、」までを「これをもつて満期における支払拒絶を理由とする遡求の前提をなす適法な呈示があつたものとすることはできない。もつとも、当時大澤商店が取引停止処分を受けていたことは前述のとおりであるが、約束手形の所持人が振出人の支払停止を理由として遡求権を行使するには振出人の主たる営業所又は住所に手形を呈示しなければならないところ、右各手形が大澤商店の主たる営業所又は住所に呈示された事実を認めるに足りる証拠はない。」に改める。
二 被控訴人は、本訴において本件約束手形金の支払を求めるほか、右請求と選択的に右各手形振出の原因となつた被控訴人に対する求償金債務の支払を保証する契約に基づきその支払を請求するので、被控訴人において手形上の権利を行使することができない前記(2)及び(9)の各約束手形表示の額面金額合計金五一万六〇八八円について、右保証契約に基づく請求の当否について判断する。
本件に現われた全証拠を精査しても右保証契約締結の事実を直接証明しうる証拠はないので、以下、当事者間に右契約が成立したものと推認するに足りる事情の有無について検討する。
思うに、保証の趣旨で約束手形に裏書をした(いわゆる隠れた手形保証)場合に、右裏書人が裏書人として手形責任を負うほか、右手形振出の原因となつた債務についても民法上の保証人としての責任を負担するかどうかは、右手形に裏書をした裏書人の意思をどのように解するかにかかつているというべきである。そして、何人も他人の債務を保証するに当つては、特段の事情のない限り、その保証によつて生ずる自己の責任をなるべく狭い範囲にとどめようとするのが通常の意思であると考えられるから、振出交付を受けるべき約束手形に保証の趣旨で裏書を要求する債権者がどのような意思であつたかは別として、裏書をする者の立場からみるときは、他人が振り出す手形に保証の趣旨で裏書をしたというだけで、その裏書によりいわゆる隠れた手形保証として手形上の債務を負担する以上に、右手形振出の原因となつた債務までをも保証する意思があつたものと推認することは、たとえ右裏書をする者が手形振出の原因関係を認識していた場合であつても、必ずしも同人の通常の意思に合致するものではないと解すべきである(最高裁判所昭和五一年(オ)第一一八七号、同五二年一一月一五日第三小法廷判決、民集三一巻六号九〇〇頁参照)。これを本件についてみるに、控訴人が右各手形に裏書をするに至る経緯については、前記引用に係る原審認定のとおりであるが、右認定の右各手形振出の原因債権の発生原因、内容、振出人大澤商店と控訴人との関係、右大澤商店の代表者である孝次と控訴人との身分的関係並びに手形振出及び裏書の経緯を併せ考慮しても、控訴人が恵子に控訴人名義の裏書を代行する権限を与え、恵子がこれに基づいて右各手形に控訴人名義の裏書を代行した際、恵子はもとより控訴人にも右説示の通常の意思を越えて、控訴人が裏書人として手形責任を負うほか、本件求償金債務について民法上の保証をもする意思があつたものと認むべき特段の事情があつたものということはできない。したがつて、右の原審認定事実をもつてしては被控訴人主張の保証契約締結の事実を推認するに足りず、他にこれを推認するに足りる証拠はない。被控訴人の右請求は理由がない。
三 以上の認定及び判断の結果によると、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し約束手形金合計金二五七万四六三七円及び内別表の金額欄記載の各金員に対する各満期以降の日である同表の利息金起算日欄記載の日から各支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める限度で理由があるから、この限度でこれを認容し、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。よつて、当裁判所の右の判断と一部結論を異にする原判決を主文のように変更する
(裁判長裁判官 近藤浩武 裁判官 川上正俊 渡邊等)